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ゴールドマン・サックス関係の裁判で遂に陪審の有罪評決


と言っても、8月1日に有罪評決を受けたのは、既に退職した元トレーダーのファブリス・トゥール一人です。2010年4月にSEC(米証券取引委員会)がニューヨーク連邦地裁に民事提訴した裁判の結果で、提訴理由は「サブプライム・ローン関連の金融派生商品を設計して、顧客に不利な情報を伏せたまま販売した行為」です。

ゴールドマン・サックス(GS)と言えば、サブプライム・ローンに起因する金融危機の元凶と目される金融機関の一つでありながら、政府による危機収拾の中でちゃっかり利益を挙げた投資銀行です。それ以前にも、ユーロ発足前の時期にギリシャの財政赤字の隠蔽工作に加担、と言うより「こんな取引をすれば隠蔽できてユーロ参加の条件をクリアできます」と持ち掛けたらしい。勿論、その取引で自分もたっぷり儲けた。

他にも色々と胡散臭い噂が流れているわけですが、そのGS自体は、SECから提訴されて三ヶ月後の7月15日に、さっさと5億5000万ドル(約480億円)の罰金を払って司法省と和解。この金額は、米金融業界の企業がSECに支払う賦課金としては過去最高だが、2010年1〜3月の業績を基にすると、同社の14日分の利益に過ぎないそうな。それを払ってGSは遂に、サブプライム・ローン関連の証券取引について、司法の場で「不正行為をした」と認めることを免れ、トゥール一人を裁判の場に立たせた。何しろアメリカ人じゃないし、傲慢な態度が有名になっていて、スケープゴートにはうってつけだった。もっとも彼の弁護士費用は銀行負担とのこと。

以下、ブルームバーグの2010年7月15日の記事や仏『ルモンド』紙の最近の記事を元に書きますが、GSは2007年、米住宅市場が傾き始めた時期に、Abacus 2007-AC1という不思議な響きを持つサブプライム・ローン関連のCDO(債務担保証券)を設計して販売した。サブプライム・ローンは言うまでもなく貸倒れリスクの高い住宅関連の貸付けで、その債権を証券化した商品90本ほどをまとめて更に証券化したのがこのCDOだ。そもそもヘッジファンド会社ポールソンの求めに応じて組んだ商品なのだが、ポールソンは最初から、相場の下落を見込んで売る積りで設計させたのであり、件の90本の選択にも手を貸したそうな。結局ポールソンは、商品設計のためにGSに1500万ドルを支払い、最終的に10億ドルの利益を上げた。しかしGSは、設計に関わったポールソンがAbacus...の下落を見込んだ取引をしていることも、GS自身が下落を見込んで同商品を売却しつつあることも、顧客に伏せたまま販売した。トゥール本人はAbacus...の設計に関わった上に、その様々なバージョンを総額110億ドル分(約9600億円)売り捌いた。

Abacus...の価値を正確に知るには、それを構成する90本の証券化商品の一本一本について、それを構成している多数のサブプライム・ローンの一つ一つの貸倒れリスクをチェックする必要がある。気の遠くなるような作業だから、購入者は格付会社の評価に頼ったわけだが、90本の証券化商品の中に「投機的」のすぐ上のBBBが付いたものもあるのに、格付会社のS&PもムーディズもAbacus...には最優良のAAAを付けた。


それにしても、2008年の金融危機が実体経済に及んで世界中の人間が苦しんでいるのに、金融機関は再び製造業などより利益を上げて、しかも新聞等の報道では、金融機関の業績回復は歓迎すべきこととされ、敢えて過去を問うような論調は全く見られない。アメリカの金融界は、要するに自分達がより多く儲けられるように政府に規制緩和を働き掛け、その中で自分達しか理解できないような派生商品を次から次へと開発して、挙句に1929年の大恐慌以来と言われる危機を引き起した。にも拘わらず、2007年以降の事態に金融界では誰も責任を取っていないことに、みんなが我慢ならない思いをしながらどうにもできない。このような事態の本質は、お金でお金が儲けられるという現代の金融システムにあるのではないか。

貨幣というのは元々、物々交換の不便さを解消するために工夫されたものだ。しかし現代の金融システムにおいては、為替市場に典型的に見られるように、貨幣自体が売り買いされている。或いは上に書いたAbacus...のように、モノの取引とは全く関係の無いものが売り買いされて、金儲けの手段となる。この辺について、『モモ』『はてしない物語』などを書いたミヒャエル・エンデが、こう書いています (『エンデの遺言、根源からお金を問うこと』NHK出版):
 「現代のお金がもつ本来の問題は、お金自体が商品として売買されていることです。本来 (物の) 等価代償であるべきお金が、それ自体が商品になったこと、これが決定的な問題です。そのことにおいて、貨幣というもののなかに、貨幣の本質を歪めるものが入るのではないでしょうか。これが核心の問いだと思います」

注一。SECによる提訴のよりテクニカルな解説が「ゴールドマンサックス提訴の破壊力」にあります。
注二。GSも1990年くらいまでは、慎重さで知られる伝統的な投資銀行であったそうです。

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