あてもなき 夢想に耽らぬ 人やある

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猫の尻尾


猫が一匹、拙宅に住みつきました。え~っ? うっそ~! ど~して地上13階のオジサンの家なんかに猫が住みつくの? と聞かれても、私にも良く分りません。強いて思い当る事件と言えば、恥ずかしながら『源氏物語』の再読も漸く35帖「若菜 下」に入り、通称 柏木なる若い貴族が猫を可愛がる話まで辿り着いたことくらいでしょうか... 

住みついて丸一日、餌は食べるけれど水を一滴も飲もうとしません。水道水の塩素が厭なのか、今までいた家の水道と臭いの違うのが気になるのか、などなど考えあぐねた末に、ミネラル・ウォーターを飲ませることを思い付きました。コンビニまで行って色々な種類があるのを見ている内に好奇心が湧いて、サントリーの「天然水」と「Volvic from France」を買い、別々の皿に入れて並べてみました。すると暫くして漸く口を付けたのは「Volvic」の方でした。硬い水が好きらしい。

それにしても、あの尻尾の動きは摩訶不思議と言うしかありません。絨毯の上にお座りしていても、餌や水を飲み食いしている時も、家の中を探検して回る間も、絶えずゆらゆらくねくね。しかも尾の長い種類なので、根元で決まる全体の形とは別に、先端10センチ程の部分が回転したり輪を作ったりU字をなしたりと、独立して振舞うのが実に面白い。表情と言っても良いくらいの綾がある。最初は「人間の貧乏ゆすりに相当するのだ」なんて仮説も立ててみましたが、子細に見ているととてもそんな貧相なものじゃありません。こうなったら何日か観察して、尻尾の「様々なる意匠」の意味を突き止めてやる、と一念発起したは良いものの、現役の身ではあえなく降参、代りにネットで検索しました。すると、私がこれほど惹き付けられたのも故無きにあらず、猫の尻尾はその時々の感情を微妙に示しているのだそうです。「猫の尾の最大の役割は感情を表現することだ」と書いているサイトさえあります。これらの情報を総合するに、私は結構この猫に気に入られているらしい... 何せ、水を飲まないのを心配して、寒い中をわざわざミネラル・ウォーターを買いに出かけてやったのですから。

さて、記事の出だしを見て、また『源氏』の話でもするのかと思った方のために蛇足をひと言。一年余り前にここで初めて言及した後 (『源氏物語』54帖執筆順の謎)、昔々読んだ際に一番余韻の残った「宇治十帖」から始めて「桐壷」に戻り、漸く「若菜」まできました。そこで現段階での皮相な感想を敢えて披瀝すれば、前半33帖を a, b 二系統に分けるとして (同記事)、a系 (「桐壷」「若紫」「須磨」「明石」等) は一種のお伽話、b系 (「帚木」「夕顔」「玉鬘」等) は要するに林真理子風の風俗小説です。正直言って、いずれの系もこの先また読む気にはなりません (但し「須磨」「明石」は結構ドラマチックな展開があって印象に残りました)。

それに対して「若菜」に始る後半は、姦通をテーマとする深刻な小説らしい。もっとも私は、同記事にも書いたように、当時の恋愛や姦通を現代と同じように捉えるのは如何なものかと思っております。それはともかく、光源氏には朱雀帝という兄貴がいて、今は退位して朱雀院と称していますが、「出家を前に娘の女三宮が気に掛かる、誰か確かな男に嫁がせておかないと心配で悟りも開けない、オマエ引き受けてはくれまいか」と言って、源氏に押し付けます。彼には紫の上という事実上の正妻がいるにも拘わらず、女三宮が降嫁して乗り込んでくるのです。

しかし源氏の本心はやはり紫の上にあって、表面はともかく新妻を余り本気では愛してやらない。その女三宮に恋慕したのが未だ実家に独り住いの柏木で、ある時偶然その姿を垣間見ることになります。現代の若い男達は、男女6歳を超えても席を同じくした上に、様々な画像を見たいだけ見て育つのが災いしてか、草食系などと揶揄されているわけですが、平安の宮廷文化華やかなりし頃、しかるべき家格の女性は父親と夫以外の男には、脚や胸は言うに及ばず顔さえ見せない。そういう中で人妻を垣間見とは、衝撃的事件なわけです。

その垣間見をさせてくれたのが、女三宮の飼っている猫です。何匹もいる内の唐猫が、何かに驚いて部屋から飛び出した拍子に、首に付いている紐が御簾の端を引っ掛けて、たまたま庭にいた柏木に彼女の姿が見えちゃったわけです。しかし、幾ら見てしまったと言っても彼女は源氏の正妻、滅多なことは想像するだに恐ろしい。そこで、目を掛けてもらっている皇太子をうまく誘導して、件の猫を手に入れて可愛がります。実家の女房達には、「あやしくにはかなる猫の時めくかな (怪しいわねえ、何やら急に猫が若殿の寵愛を受け始めたわ)」と冷かされてしまう... 念のために申しますが、拙宅に猫の住みついたのはこ~ゆ~事情からではありません。

追伸。読者の方から、「一般的に犬や猫にはミネラル・ウォーターは余り良くないから、気を付けるべし」との御忠告を頂きました。素人の私のブログを読んでその通りなさる人がいるといけないので、お伝えする次第です。拙宅の猫も、緊急避難的な措置の後、現在は水道水で御満足のようです。

*Comment

 

わざわざ親切なお便りを頂き、有難うございます。あの時は水道水をどうにも飲まないので、一寸パニクってミネラル・ウォーターを試してみましたが、ご忠告に従って調べてみます。
  • posted by 閃緑藻 
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  • 2010.02/19 17:58分 

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  • posted by  
  •  
  • 2010.02/19 15:22分 

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