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ワクチン調達失敗したのでは:森永卓郎の疑問
消えたワクチン
森永卓郎・経済アナリスト、独協大学教授
『毎日』2021年7月21日付けの記事をコピーします。
ワクチン接種に急ブレーキがかかっている。職域接種の新規申請が停止されただけでなく、自治体が準備した大規模接種会場が休廃止に追い込まれ、すでに予約した個別接種をキャンセルする病院まで現れた。ワクチン供給が追い付かなくなっているからだ。
河野太郎行政改革担当大臣によると、7月以降のワクチン供給が減り、供給可能量の3倍程度の要請が自治体から寄せられていて、自治体への配分を絞らざるを得ない状況だという。実際、ワクチンの配分を大幅に抑制された自治体からは、接種計画を大幅に見直す必要が出てきていると悲鳴が上がっている。
しかし、政府はワクチン接種が今後は計画通りに進むと強調している。7月8日の会見で菅義偉総理は、「9月までに希望される全ての国民に接種が可能となる2億2000万回分の十分な量が確保されている。速やかに接種に万全を尽くす」と語り、ワクチンによる新型コロナの収束に向けた自信をみせた。
しかし、本当にこの言葉を真に受けてよいのか、私は大きな疑問を抱いている。元々の政府の説明では、ファイザー社製のワクチンは6月末までに1億回分、さらに9月末までに7000万回分が供給されることになっていた。一方、モデルナ社製のワクチンは6月末までに4000万回分、さらに9月末までに1000万回分が供給されることになっていた。つまり、菅総理の9月までに2億2000万回分のワクチン供給というのは、当初計画通りの数字だ。
ところが、7月8日の会見で菅総理はファイザー社製のワクチンについて、「全国の自治体には先月(6月)までに9000万回のファイザー社のワクチンが人口に応じて配分されている。そのうち4000万回分が使用されずに、在庫となっていると見込まれる」と語っている。いつの間にか、1億回分調達できているはずのワクチンが9000万回分に減っているのだ。そして4000万回分が自治体の在庫となっているという見立てにも疑問を持たざるを得ない。政府は6月末までにワクチンを保管するためにマイナス75度に保つことができる「ディープフリーザー」(極低温の冷凍庫)を1万台配る予定としていた。仮にそれが達成されていたとしても、1台のディープフリーザーで保管できるワクチンは1万2000回分だ。仮に10%の自治体がフリーザー満杯までワクチンをため込んでいたとしても、1200万回分にしかならない。4000万回分ものワクチンがため込まれているとすれば、なぜワクチン不足に悲鳴を上げている自治体がこうも多いのだろうか。
モデルナ社製のワクチンの場合は、もっとひどい。河野大臣は7月6日の記者会見で、モデルナ社製ワクチンについて、6月末までの供給量が4000万回分としていた当初契約より、大幅に少ない1370万回分だったと述べた。契約の3分の1しか納入されなかったのだ。しかも河野氏は、供給が減ることを知った時期について、「正確には覚えていないが、ゴールデンウイーク前くらいじゃないか」と答えた。つまり、2カ月間も国民に対してウソをついていたことになる(管理人注:つまり都議選終了直後まで)。
河野大臣は7月12日にテレビ朝日の番組に出演して、モデルナ社製のワクチンの6月末までの調達が、当初の4000万回から1370万回に減った理由として、欧州連合(EU)との輸出交渉の際に、ファイザー社製を確実に輸入することを条件に、モデルナ社製の供給の先送りについて承諾したことを明らかにしている。
世界的需要拡大のなかで、供給量を3分の1に絞ることを承諾してしまうのは、外交能力を疑わざるを得ない事態だが、もうひとつ大きな疑問は、ファイザー社製のワクチンが予定通り入っているのであれば、なぜファイザー社製のワクチンを使用している自治体への供給を絞らないといけないのかということだ。
半分以下の接種回数
もう一度当初の計画を振り返っておこう。厚生労働省の計画は、まず医療従事者500万人に接種(先行接種分を含む)し、その後高齢者3600万人に接種するというものだった。合計で4100万人、接種回数は8200万回ということになる。もちろんすべての高齢者がワクチン接種をするわけではないが、仮にすべての高齢者がワクチン接種をしたとしても、8200万回分のワクチンがあれば、十分足りることになる。菅総理の説明だと医療従事者と高齢者に接種されるファイザー社製ワクチンは6月末までに9000万回あるのだから、十分接種を終えられたはずだ。しかし、医療従事者への接種は、ほぼ終了したとみられる一方で、高齢者へのファイザー社製ワクチンの接種回数は6月末現在3438万回で、高齢者全員に接種するときに必要となる7200万回の48%と、半分以下なのだ。
また国民全体でみても、6月末までの接種回数は4881万回と、政府が主張する供給量(ファイザー社製9000万回、モデルナ社製1370万回の合計1億370万回)の47%と、これも半分に満たないのだ。
こうした状況を考えると、実際に日本に入ってきたワクチンは、政府の主張より相当少ないという疑いを持たざるをえない。政府がワクチン調達の契約に失敗して、予定よりもずっと少ないワクチンしか日本に入ってきていないのではないだろうか。
もしそうだとしたら大問題だ。政府は、これまで「ワクチンがゲームチェンジャーになる」と繰り返し主張し、ワクチン接種の進展を前提にオリンピックの開催を準備してきたからだ。もしワクチン供給が予定の半分程度しかないことが分かっていたら、オリンピックは中止する以外に選択肢がなかったのではないか。
私の主張は荒唐無稽にみえるかもしれない。しかし、政府はワクチンの供給量をきちんと公表していない。しかも契約先との秘密を守る必要があるとして、ワクチン調達の契約書そのものも公開していないのだ。
先進国のなかで、なぜ日本だけがワクチンの調達に失敗したのか。なぜ政府は国民にそのことを隠してきたのか。野党とメディアはそのことを徹底追及すべきだろう。
(注)ワクチン接種回数は原稿執筆時点のもの
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