あてもなき 夢想に耽らぬ 人やある

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筒井康隆『読書の極意と掟』


以前からこの作家には関心があり (「筒井康隆の『パプリカ』『文学部唯野教授』」)、『朝日新聞デジタル』でインタビュー記事を読んだ折りに、iPadのiBooksアプリで彼の著作を検索し、標題の本が目に止まった。2018年刊。

題名が如何にもカッコいいので、まず無料サンプルを覗き、直ちに購入。ちなみに、紹介される全66冊の題名がサンプルで見られます。

実は丸谷才一の文章が好きで、彼の小説・評論は全て買って一部を読みましたが、彼の書評を集めた『遊び時間』『梨のつぶて』などは、たまたま読んだことのある本の書評以外、どうも興味が湧かなかった。

比べて『読書の極意と掟』は、全く知らない書物に関する記述も面白く、ついつい読んでみたくなる。しかし自分の人生の残り時間を考えると、やっぱり止めておくか...

どうしてそんなに面白く読めたのか考えてみたが、結局彼の語り口が私の趣味にぴったりということらしい。来る日も来る日もアクセス数が0と1の間を揺れ動くこのブログをわざわざ読みに来て下さる読者には、お気に召すかも知れません。

以下、特に印象深かった箇所を引用します。

第一章 幼少年期 1934年〜(19冊)
トオマス・マン『ブッデンブロオク一家』
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トオマスがリューベックの富裕な商家だった自身の一族の歴史をモデルにして書いた作品で、小説のブッデンブロオクもやはりリューベックの豪商の一族。その繁栄と、ドイツ・ブルジョワジイの崩壊とともに没落していく姿を描いている。これをあまり平静な気分で読めなかったというのは、ぼくの家も北堀江にある大きな藍問屋でありながら、父の長兄にあたる泉屋五世・嘉兵衛や次兄・嘉明の放蕩によって没落してしまっていたからだ。読むにつれ、マンの人物描写のみごとさに伴って親戚の誰それの顔が浮かび、一家の浮沈に一喜一憂し、ブルジョワ家庭のだらしない蕩尽にはらはらしたものだ。
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後年聞かされた文談での定説は、ぼくを充分に納得させた。
「いい作家が出る条件は、いい家柄に生まれ、その家に沢山の本があり、その家が没落することである」


第二章 演劇青年時代 1950年〜(17冊)
ヘミングウェイ『日はまた昇る』
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以後、ぼくは現代アメリカ文学を集中的に読むようになった。ヘミングウェイ、フォークナー、ドス・パソス、フィッツジェラルドなどであるが、なかでもぼくを夢中にさせたのは三笠書房から出ていた大久保康雄訳のヘミングウェイ『日はまた昇る』だった。何よりもその文体にまいってしまったのである。ぼつん、ぽつんと途切れる、句点の多い、投げやりで吐き捨てるような文章からぼくが受けたものは、それまでの自然主義リアリズムの小説からは得られない新鮮な感覚だった。失われた世代の喪失感や虚無感を描くのに、これほどリアリティのある文体はなかった。のちに小説を書きはじめた時、この文体からずいぶん影響を受けていたことを自覚したものである。
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第三章 デビュー前夜 1957年〜(8冊)
三島由紀夫『禁色』(きんじき)
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三島由紀夫もまた、少し前に文談に登場した新進作家だった。その新作である『禁色』が評判だった。青猫座以来つきあいのあった女優たちがしきりに噂していたので、ぼくはその小説を読んだ。そして打ちのめされた。こんな凄い文章が書けなければ作家にはなれないのかと思い、絶望した。この作家は、ぼくの「作家にでも」といういかにも軽い考えを根本から打ち消してくれ、作家になるならそれなりの修業が必要であることを教えてくれたのである。そのお蔭でぼくは、マスコミによって便利に消費されてしまうような作家には、ならずにすんだのかもしれない。
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(「こんな凄い文章」を確認するために文庫の古本を買ったが、字が小さ過ぎるし、性的指向がボクと異なる人達のお話らしいので、ほんとに読むのは止めた)

ノーマン・メイラー『裸者と死者』
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第二次世界大戦の末期、メイラーはレイテ島、ルソン島に転戦していて、その体験が一部もとになっているようだが、これは記録文学というものではない。兵士それぞれの内面描写や生活、それと交互に示されるカミングズ将軍とその副官ハーン少尉の会話による思想性は、その深い表現力によってはるかに記録文学や戦争文学の域を超えている。主役はあくまで歩兵連隊所属歩兵中隊の偵察小隊なのだが、カミングズ将軍に反抗したハーン少尉がこの小隊の隊長に任じられ、さらには戦場であるこのアノポペイ島の反対側から日本軍の背後にまわって偵察を行えという過酷な命令を受けるところから、話は俄然物凄さを持ち始める。
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第四章 作家になる 1965年〜(12冊)

第五章 新たなる飛躍 1977年〜(10冊)
最後がハイデガーの『存在と時間』。

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