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株主達は貪り過ぎ?


金利が2%の時代に、株式投資の利回りは13〜15%が当然と考えるなんて、狂気の沙汰にして諸悪の根源... とでも言いたげな、仏紙『ル・モンド』の記事です (2018年5月15日付)。


セメント業界の世界最大手ラファルジュ・オルシム社は2017年、17億スイス・フランの損失を出し、コスト圧縮計画を実施し、シリア領内で操業を続けるためIS(イスラム国)に金を払うという不祥事を起こして強い非難を浴びた。しかしそんな状況でも、同社の株主は枕を高くして寝られる。前年と同じ一株当り2スイス・フランの配当を手にするのだ。

同社は業績が良くても悪くても気前が良い。2015年には記録的損失と配当金の増額を同時に発表したくらいだ。そういう会社だから、過去5年間に12億スイス・フランしか利益を上げていないのに、株主達にはその二倍近い金額を配当し、その原資として内部留保を取り崩すことも辞さない。

実はラファルジュ・オルシム社は例外ではない。EUの資本主義は、何年も前から株主優先型に変化してきており、株主達は常に勝ち組と言って良い。しかしこの強力なトレンドに対して、異議申し立てが起きつつある。

それを示すのが、フランスの代表的な株価指数CAC40を構成する大企業の利益配分に関する報告書で、貧困の無い世界を目指す国際協力団体 Oxfam とNPOの一種である Basic (社会的共通益協同組合) が5月に発表した。

これによると、CAC40の大企業は金融危機後の2009年以来、配当と自社株買いを合わせて利益の67.5%を株主に還元した。同じ2009年、サルコジ元大統領が就任後間もなく提唱した利益配分に関するルール:「従業員と株主と設備・研究開発投資に1/3ずつ」からは程遠い (もっともこの提案の根拠は政治的なものでしかなかったが)。

2018年現在はどうかと言えば、従業員は33%どころか5%しか受け取らず、投資に回せる分も27.5%しか残っていない (BasicとOxfamによる計算)。

報告書は「CAC40の大企業で、ステークホルダー間の利益配分がこれ程ひどいことは今まで無かった」と断じている。更にBasicのクリストフ・アリオは解説して:「株主にまずカネが配られ、彼等は何が起こっても大金を手にする。投資は一種の調整弁でしかなくなり、企業を弱体化させるかも知れない」。

BasicとOxfamはこのような選択が「格差拡大のスパイラルを生み出す」と考え、よりバランスの取れた配分を求める勧告を出した。特に一企業内で、配当総額が従業員の受け取る利益配分の総額を超えないこと、また報酬の最高額が、報酬の中央値の20倍を超えないことを、提案している。

実は資本主義システムの内部にも批判的見解があり、上のような立場に賛同している。ナティクシス銀行の経営委員会メンバーにしてルノーの取締役でもあるエコノミストのパトリック・アルテュスは現状を嘆いて言う:「株主達は何が何でも配当と資本利回りを維持するため、従業員の側に一層大きな経済的リスクを背負わせようとしている(中略)これでは話が逆だ!」(ジャーナリストのマリー-ポール・ヴィラールとの共著『もしも従業員達が反乱を起こしたら』2018年)。

世界最大の資産運用会社ブラックロックの代表ラリー・フィンクも、懸念を表明する一人だ。2008年の金融危機以来、「資本を持つ者は莫大な利益を手にしたが、世界中の多くの人々は所得が減り、彼等の年金システムも脅かされている」と述べる。フラストレーションや不安、大企業に対する恨みが大きくなってもおかしくない状態なのだ。

社会党系労働組合のナショナル・センターCFDT会長を務めたニコール・ノタとミシュラン社のCEOジャン・ドミニク・スナールが政府に提出した報告書でも、「株主のための短期的価値のみを指向するのでない」企業ビジョンを掲げている。

利益配分が資本所有者にますます有利になってきたことは、数字が示している。ヴァルカン社 (財務分析専門) のエリック・ガリエーグ社長は言う:「2000〜2010年に掛けてCAC40の大企業は毎年、利益の30〜40%を株主に配当した(中略)その後この比率は45〜60%の間を変動している。株主にとって夢のような時代だ」。

しかもこの数字は、自社株買いを含んでいない。配当と自社株買いを合わせると、株主達は平均して利益の2/3を懐に入れた計算になる。ラガルデール社など一部の大企業は、更に多くを与えている。利益総額を上回る金額を株主に還元する企業さえある。冒頭に挙げたラファルジュ・オルシム社の他にも、鉄鋼のアルセロール・ミタル社、エネルギーのエンジー社、水処理のヴェオリア社など。

ヴァルカン社のガリエーグは言う:「株主資本主義の動きは、もはや限度を超えている。今まで存在したバランスを崩壊させており、企業によっては存続が危うくなるかも知れない」。まるで株主達が、他のステークホルダーを犠牲にして企業の権力を握ったかのような事態だ。それを可能にしているのが、何よりも資本所有者のための価値創造を担わされた経営者達であり、彼等はその貢献度に応じて報酬を得る。

Oxfamの報告書によれば、「金融危機後の2009年以降、CAC40の企業トップの報酬は従業員達の平均給料に比べて、約二倍のペースで伸びてきた。現在、従業員達の平均報酬の119倍を得ている(中略)何より企業トップの報酬の内、自社の株式相場に連動する部分が今や54.5%に達した。当然、株主達の利益こそ自らの利益と考え、自らの報酬を最大限増やすことを狙って、経営上の短期的な選択を優先する」。

先程の共著『もしも従業員達が反乱を起こしたら』は、主にアングロ・サクソン系の金融資本主義が対象なのだが、現状について非常に暗い総括をしている:

「金利が2%の時代に、株主達は株式投資の利回りが13〜15%で当然と考える。株主がそう言う以上、経営者はどんな手段を用いても達成しようとする。度を越した借入れをし、従業員やサプライヤーなどを徹底的に締め付け、何の負担もせずCO2を排出し、環境ヘの影響を無視して天然資源を燃やし、その上自社株買いを定期的に行って株主を潤すのだ」

上に挙げたノタ・スナール報告が目指すバランスの回復が実現しなければ、この辛辣な批判がフランスの資本主義にとってもよそ事ではなくなるだろう。

注の一 ラファルジュ・オルシム社は仏ラファルジュ社とスイスのオルシム社が合併して生まれた。

注の二 言うまでもなく、従業員が受け取る給料は生産に携る労働の対価であって、記事で問題になっている配分は、その労働の結果として生じた利益についてです。

注の三 パトリック・アルテュスはフランスのエスタブリッシュメントを代表するエコノミストながら、同じジャーナリストのマリー-ポール・ヴィラールとの共著で、

 2007年:資本主義は自己破壊に向っている、
 2010年:流動性は制御不能の状態にある、
 2015年:世界はカオスに向っている、
 2016年:各国中央銀行は狂っている、

などと警告を発してきたそうな。

注の四 日本企業について同様の分析をしてくれる組織は無いのでしょうか。

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