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富裕層が富めば富むほど経済成長は鈍化する


IMF(国際通貨基金)所属のエコノミスト数人が、「富裕層の富が増せば増すほど、経済成長率は低下する」という調査報告を出しました。
 具体的には、資産規模で上位20%の富裕層の所得総額が、国民全体の所得総額(いわゆる国民所得)に占める割合を考えます。この割合が1%増えると(例えば42%から43%へ)、その後5年間で成長率は0.08%押し下げられ、下位20%の層が得る所得の割合が1%増えると、経済成長率は0.38%上乗せされる、とのことです。
 
ここ数年、先進国では成長率が1%前後を低迷しているので、0.08%低下あるいは0.38%上乗せというのは、注目に値する数字です。にも拘わらず、こういう分析は『日経』などでは紹介もされないようなので、仏『ル・モンド』紙の記事 (2015年6月17日付) の要点をご紹介します。


IMFのエコノミスト数人が、「富裕層の富が増せば増すほど、経済成長率は低下する」という調査報告を出した(6月15日発表の “IMF STAFF DISCUSSION NOTE, Causes and Consequences of Income Inequality : A Global Perspective”)。経済的新自由主義が掲げるトリクルダウン理論 (富める者が更に富めば、貧しい者にも自然に富が浸透する) に、公然と異議を申し立てたのだ。

例えば、上位20%の富裕層が得る所得の国民所得に占める割合が1%増えると、その後5年間で成長率は0.08%押し下げられる。最も富める者達が更に富を得ても、それは下の階層に流れ落ちて行かないのだ。逆に下位20%の層が得る所得の割合が1%増えると、経済成長率は0.38%上乗せされる(上記 NOTE, p.7)。

トリクルダウン理論は、レーガノミクスやサッチャリズムの施策、特に高所得者向け減税の根拠となったものだが、左翼思想に染まっているとは思えないIMFのエコノミスト達が、逆の結論を出したわけだ。これに基づいて各国の政治指導者に対して、格差を減らし成長を維持するために、貧困層と中間層向けの施策を重視するよう求めている。

実はOECDも同様の結論に達していた。2014年12月になされた調査の結果が、今年5月の経済格差に関する第三報告 In It Together : Why Less Inequality Benefits All に収められているが、先進国において1985年から2005年に至る20年間の格差の拡大は、平均して成長率を合計4.7%犠牲にしている。この間、富裕層の所得は急激に伸びたが、下位40%の層の味わった運命がそれを帳消しにしてしまった。

OECDの発表によれば、フランスはこの問題に関して中間的位置にあるが、2007〜11年の5年間(サルコジ大統領の時期)に限れば、格差の拡大は加盟国34ヶ国の内で3番目に大きかった。

最初に取り上げたIMFの調査は、先進国, 新興国, 開発途上国合わせて約100ヶ国が対象で、OECDより広い範囲をカバーしている。その分、格差拡大の力学と原因についてより突っ込んだ分析になっており、冒頭に挙げた成長率云々の他に以下の事実を指摘している:
 i) 金融のグローバル化と技術革新はどの国においても、上位10%の富裕層の所得の占める割合の増加に結び付いている。
 ii) 先進国では、数十年前から貧富の差がかってないほど拡大してきた。
 iii) 極端な富の集中が進行している。世界の富の凡そ半分に当る110兆ドルを、1%の人間が握っている。
 iv) 労働市場の規制緩和が、格差の拡大及び上位10%の富裕層の富の増大を伴っている。労働市場の規制緩和は富裕層に恩恵をもたらす一方で、貧しい労働者の交渉力を弱めることになっている。

iv)は、労働組合側が主張していることに他ならないし、IMFの別の未発表の調査とも整合性がある。即ち先進国では、平均賃金に対する最低賃金の乖離は格差の拡大と並行しており、また組合組織率の低下は上位1%の富裕層の所得増大と強い相関関係にある。

最後にIMFのエコノミスト達は先進国における格差縮小の処方箋として、次の二点を挙げている:
 1)人的資本の強化と能力開発
 2)富裕税を含む資産課税とより累進的な所得課税による、税制の再分配機能の強化

追伸その一。マスコミでは、アベノミクス以来 富裕層による高額消費が増えたことをはやしていますが、以上のような分析からすると、実に表面的な現象を追っているという感じがします。

追伸その二。こうなるといよいよ、日本がすべきは消費増税ではなく、資産課税と所得税の累進性強化ということになります。その消費増税に関して、ウィキペディアで意外な情報を発見しました。竹中平蔵氏の発言です:
 「格差是正のために税金を集めるわけであり、社会保障の財源に相応しいのは消費税ではなく所得税である。所得税を負担能力に応じて払ってもらわなければ、社会保障のためという理屈は成り立たない。すべての所得階層に同率で課される消費税は格差是正につながらず、むしろ格差を拡大させる」(視点:成長と財政再建へアベノミクス「仕切り直し」の好機 = 竹中平蔵氏 Reuters 2014年12月26日)。
 あの人がね〜。いや、あの人でもね〜と言うべきかも知れません。

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