Entries
偏屈オヤジのCM考
最近のテレビCMのしつこさは異常だ。
例えば『相棒』。謎解きに近付くに従ってドラマが中断される頻度が増すばかりか、一回の中断で7つも8つもCMが入り、その合計時間はドラマの断片より長いとしか思えない。
「CMは一切入れるな」などという原理主義的思想は持っておりません。NHKにはふた月ごとに4,340円差し上げているので、CM無しで見られる (と言っても自局番組の宣伝が結構うるさい)。民放の場合は、CM付きだからこそ只でコンテンツが見られる。その理屈は重々承知しております。制作スタッフ・俳優に加えてその他大勢の人達が金とエネルギーを注いで作ったものを、只でしかもCM無しで見せよとは申しません。
しかしCMを入れるにしても、節度ってものがあるでしょうが! 続きがどうしても知りたい見たい、と感じる瞬間をチョット外して、視聴者の気分も落ち着くのを待っておっとりCMを入れる、そういう奥床しさと言うか鷹揚な気持は持ち合わせていないのでしょうか。そうする方が視聴者も、「何だよ、ここでCMを入れるのかよ」という反撥無しに見てくれて、宣伝効果が増すかも知れない、とは考えないのでしょうか。
CMの強引さを最も強く感じたのは、某局がSF映画『インデペンデンス・デイ』を放映した時です。
かって宇宙人に連れ去られ、人体実験されて戻ってきた田舎町のオヤジさん。幾ら説明しても町の人ばかりか子供達にさえまともに相手にされず、酒浸りの生活をしていた。そのオヤジさんがエイリアンの巨大円盤に対する最終攻撃に参加することになった。
ユダヤ人研究者の開発したコンピュータ・ウィルスが首尾よくエイリアン側の母船に送り込まれて、円盤のシールドも消えた。しかし決定的打撃を与える前に、戦闘機部隊がミサイルを打ち尽くしてしまう。
やはり駄目かと思った瞬間、例のオヤジさんがひと足遅れて飛んで来て、まだミサイルがあると言う。頼むぞ!というわけが、不具合が生じて発射出来ない。とき既に円盤が強烈な破壊力を持つあの主砲を打つ準備に入って、円盤下面中央がゆっくりと開き、青白い光が輝き始めている。覚悟を決めたオヤジさんは「帰ってきたぞ、お返しだー!」と叫びながら、垂直の光線が地上に向って放たれ始めたその中に飛び込んでいく。
抱えていたミサイルが爆発して円盤が崩壊... と誰もが期待しているその直前にCMが入った。私は直ちにテレビ局に電話して怒鳴りましたね。「幾ら何でもこの瞬間にCMなんか入れて、恥ずかしくないのか」とね。「我々がエイリアンに勝てるかどうかが決まろうというこの瞬間に」と付け加えたかも知れない...
話は少し変りますが、30年近く前、フランスのテレビ局TF1の会長がジャーナリストに答えてこんな発言をした:
「テレビを語るには様々な切口がある。しかしビジネスの観点からすれば、現実を直視するしかあるまい。TF1の仕事とは基本的に、例えばコカコーラ社がその商品を売るのを手伝うことだ。
(中略)
CMが視聴者に知覚されるためには、その脳がCMを受け入れられる状態にあることが必要だ。我々の番組は、視聴者の脳をそのような状態にすることを使命とする。つまり、CMとCMの間に視聴者を楽しませリラックスさせて、脳を都合の良い状態にもっていくのだ。我々がコカコーラ社に売っているもの、それは視聴者の脳がCM受け入れ可能な状態にある数分の時間なのだ。
(中略)
脳をそのような状態に整える、実はこれほど難しいことはない。そのために我々は、耐えざる変化を追求せねばならない...」
『インデペンデンス・デイ』を放映した日本のテレビ局の、何が何でもCMを見させようという発想とは明らかに異る。それでも表現が余りに露骨で、当時フランスでも大騒ぎになりました。
しかしこんな割り切った考えを持っていても、かの国の映画・ドラマ放映に関する規制には当然従った。改めて現在のルールを確認したところ、おおよそ次の通り:
1)一時間の番組ならCMによる中断は二回のみ。
2)CMの長さは一時間当り9分まで。
3)CMの音量を番組本体の音量より大きくしてはならない。
正に映画大国の面目躍如です。私が長期滞在した30年以上前もこんな感じだったような気がしますが、その後日本の民放のやり方に慣らされてしまい、「CMに対する自分の反撥はひょっとして幼児的反応なの?」などと反省しそうになります。
そんな私にこのルールは、上に引用した発言以上に衝撃的です。国がその気になれば、こんな規制を掛けられるんです。これに比べたら今の日本の状況は、テレビ局のやりたい放題と言うしかない。但しフランスの場合、映画制作等にかなりの補助金が出ているらしいので、単純な比較ができないのは確かです。
追伸その一 CMに対抗するには?と必死で考えた挙げ句、CMになったら直ちにリモコンの消音ボタンを押すことを思い付いた。これで、苛立たしさが53%くらい軽減される。「ザマ見ろ!」と独り言を言う心の余裕もできる。登場する奴らの阿呆面まで消せると良いのだが。
追伸その二 『インデペンデンス・デイ』の問題の箇所はDVDを見ながら記憶を辿ったのですが、もしかしたらオヤジさんが「帰ってきたぞ、お返しだー!」と叫ぶところはカットされていたかも知れません。何しろ民放が映画を流す時はいつも、CMを入れる時間を確保するために、気付かれない程度にあちこち削っていて、これも怪しからん話です。お情けで只で見せてやっているのだ、少しくらい削って何が悪い、という傲慢さが透けて見える。
追伸その三 CMと言えばもう一つ、目にする度に不思議で仕方ないことがある。お肌が10歳も20歳も若返る液体やクリーム、中年以降の善男善女の身体の不具合が解消されるサプリ、そういう類の商品のCMが毎日朝から晩まであらゆるチャンネルで流されている。
普通に見ればどう考えても効果・効能を謳っているとしか思えない、約束しているとさえ感じられるのに、利用者の経験談という形を取り、画面の端っこに小さな字で「個人の感想です」「効果・効能ではありません」と一言入れるだけで、どんなに素晴しい効果を語っても咎められることが無いらしい。
或いは、耳で聞き流しているだけで英語が話せるようになる教材が、プロゴルファー石川 遼の顔と共に何年間も流されていた。結局、全く根拠の無い話であることが知れ渡ったらしく、販売していた会社が事業を止めた。
- [テレビ関係]
- Comment(0)
- [Edit]
*Comment
Comment_form