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味噌醤油 豆腐に素麺 寿司に酒
日本料理が世界文化遺産に登録されて以来... かどうか定かではありませんが、最近「美食文化」という表現をよく見かけます。しかし「美食」に文化という言葉を付けるのが、どうもしっくり来ません。自慢じゃないけど味音痴だし懐具合も気になるし、高級レストランや料亭には縁が無いせいかも知れない。たまにクライアントのお供でそういう席に侍ることもありますが、妙に凝った料理を口にすると、どうしてもあだ花のように感じてしまう。
むしろ、夏のさ中に茗荷を刻み込んだ麺つゆに素麺を浸して食べる、すると文化だな〜とつくづく感じるのです。
昔から日本人は夏の暑さには閉口してきた。『徒然草』に書いてあるそうな:「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑きころわろき住居は、堪へ難き事なり」。冬の寒さは何とか凌げるけど暑さには参る! そんな日本の夏を少しでも快適に過ごせるようにと、工夫を重ねた跡が素麺には感じられる。正に気候風土に育まれた食材と言えます。
あるいは豆腐。ごく単純化すれば、大豆を一晩水につけて柔らかくし、水を加えながらすり潰す。これを加熱後、搾って得られた液 (豆乳) を型に入れ、にがりを加えて固める。これが絹豆腐 (搾る時に絹の布を用いるからではないらしい)。
木綿豆腐の場合は、豆乳が少し固まったところで一旦崩し、木綿を敷いた型に入れて、重しを乗せて水分を切りながら固め直す。
何ゆえ大豆のままで食しないのか。大豆自体は消化が余り良くないからです。豆腐の製法を現代的に解釈すれば、大豆の組織を壊して蛋白質や脂肪を一旦遊離させた上で、消化の悪い繊維質を除いて固めた、ということになる。そのため体内吸収率は極めて高く、92〜98%が消化吸収される。
また、植物性蛋白質は一般に動物性に比べて必須アミノ酸の含有量が低いが、大豆はアミノ酸の構成が動物性蛋白質に近い。しかも肉類は栄養価が高い反面、コレステロールの原因になり易いが、豆腐にはそれを下げる作用もある... といった調子で、これこそ先人の知恵です (以上、日本豆腐協会, 全国豆腐連合会, 愛知県豆腐商工業協同組合のホームページから)。
蛋白質もアミノ酸も知られていなかった遥か昔に、色々工夫を重ねて、結果的に豆腐という良質の食品に辿り着いた。その経緯は驚嘆に値します。幾ら大豆を眺めていても、今の豆腐は思い浮かばないのではないか。発想の乏しい私は感嘆するばかりであります。
蕎麦も実に興味深い。ソバという一年草の写真を見ると、穀類とは全く異る姿形に可憐な花を付け、その実も結構大きな四面体のような形をしている。それを粉にして練って麺の形に仕上げるだなんて、私にはとても思い付けることじゃありません。しかも冷温どちらでも食べられて、掛けや盛りの他になめこ, 山菜, とろろなど、色んな形で楽しめる。
他にも味噌, 醤油, 海苔, 沢庵等の漬物, 魚の味噌漬け・粕漬け... そして日本酒。いずれも改めて眺めると、我らが先祖達の試行錯誤の有り難さが身に沁みます。日本の食文化の奥深さを感じます。
ついでに私の好みを言わせてもらえば、酢メシを握って生魚の切身を乗せ、醤油を付けて食べるなんて、よくぞ思い付いてくれた。どこのどなたか存じませぬが、タイムマシンに乗って尋ね当ててお礼を言いたいくらいです。冷酒をちびちび呑みながら寿司をつまむ、こたえられませんね...
醤油で思い出すのは、子供の頃ご飯に醤油を掛けて食べようとして、母に叱られたこと。「おかずがちゃんとあるじゃないの!」と言いたかったのでしょうが、ご飯に醤油も悪くないもんです。
確かに、ただの醤油より酢醤油を掛けた方がうまいし、ご飯の上にとろろ昆布を薄く乗せて酢醤油を掛けると、更に美味しい。味噌をご飯に乗せて、海苔でくるんだのも中々いける。年のせいなのか、これぞ文化だな〜と実感したためか、最近無性にそういう食べ方がしたくなる。あんまり舌が肥えてしまうのも如何なものか、なんて感慨に耽る。
注の一:お断りするまでもないでしょうが、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されたのは、正確には「和食 日本人の伝統的な食文化」だそうです。
注の二:ソバの花です:
蕎麦(そば)写真集 1
- [恐れ多いが食について]
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